D. 余剰汚泥排出抑制型水処理プロセスの開発

膜分離技術や各種汚泥消化法を組み合わせての余剰汚泥排出抑制型水処理システムの開発・評価


背景と目的

 廃水処理で発生する余剰汚泥は、出来るだけ再利用するというのが一つの方向ではあるが、一方で小規模な処理施設ではそのような高度な汚泥利用システムが現実的でないところも多い。そのような場合に余剰汚泥の発生量を出来るだけ減らして管理の容易な廃水処理システムを構築することが求められる。ここでは(1)膜分離式活性汚泥法、(2)消化促進活性汚泥プロセス、(3)高温接触酸化法について検討している。

 膜分離バイオリアクターは、既に実用化されつつあるが、膜により物理的に閉鎖した複合微生物系での微生物群の動態はほとんど調べられていないと言って良い。本研究は膜分離式活性汚泥法の特性評価と機能解析をおこない、さらに膜分離式活性汚泥法に特有な微生物生態系の動態を明らかにすることを目的としている。

 消化促進活性汚泥プロセスとは、汚泥の一部をさまざまな方法により消化させて曝気槽に戻すことにより汚泥発生量の削減を目指したプロセスである。汚泥消化の方法として、担体の投入と加温を併用した中温好気分解および加熱による汚泥可溶化について検討している。

 また、高濃度廃水の完全酸化処理のための方法として、高温接触酸化法を検討している。この方法では、廃水中の有機物の分解に伴う発熱により処理槽を無加温で50℃程度まであげ、有機物の完全酸化とともに水分の蒸発を行うという、余剰汚泥のみならず廃水も出ない処理法と位置づけられる。ここでは微生物動態を調べることにより工学的な知見に対する微生物学的な裏付けを与えるための検討を行っている。

これまでの成果と今後の展開

 実験室規模および実際に稼働している膜分離活性汚泥プロセスについて基礎的な検討を行ってきた。一般の活性汚泥法に比べ、膜分離活性汚泥法では微小動物叢が不安定であり、特定の微小動物が数多く、しかも大きな変動とともに計数されることなどがわかってきている。また、回分実験により後生動物が汚泥の無機化を促進し、汚泥減量化に重要な役割を果たしていることが示唆された。今後、細菌、原生動物、後生動物、基質の濃度(個体数)変化をモデル化し数値シミュレーションによって解析し、また、下水処理場に設置したパイロットプラントにおいて原生動物等を含む微生物生態系の特徴を明らかにしてゆきたいと考えている。

 消化促進活性汚泥プロセスにおいては、担体を投入して温度を45℃に保った高率好気性消化を導入した場合、活性汚泥法からの汚泥発生量を最大84%削減することが可能であった。また温度をさらに上げると短時間で汚泥を可溶化できることも分かった。このような汚泥削減型活性汚泥プロセスでは、窒素の除去をどのように安定して維持するかが一つの課題であり、そのような視点からの微生物動態解析が今後必要になってくると思われる。

 高温接触酸化法に関しては、運転条件のうちリアクター内に投入する木片チップなどの担体の含水率が重要であることが分かった。このような運転条件と微生物動態との関連をFISH法およびキノンプロファイル法を用いて現在解析中である。今後、より精度の高い微生物群の定量を目指し、抽出した核酸をターゲットにしたハイブリダイゼーション法や優占細菌のDNAシークエンスの解析などにもつなげてゆきたいと考えている。