富栄養化の原因物質の一つである窒素を下廃水等から除去するための生物学的な窒素除去プロセスにおいて温室効果ガスである亜酸化窒素(N2O, 一酸化二窒素)の発生の可能性があり、実際の廃水処理施設での発生例も報告されている。
ところが、その発生のメカニズムは単純ではなく、下図のように、窒素除去プロセスを構成する硝化と脱窒のいずれもから発生の可能性がある。本研究は、これらの細菌群が協力して行われる窒素除去プロセスで亜酸化窒素がどのように生成するかを明らかにし、またそれを未然に防ぐための方策を見いだすことを目的としている。
1.発生メカニズムの検討
代表的窒素除去プロセスである間欠ばっ気式処理においてどの段階でどの程度の亜酸化窒素が発生しうるかを室内実験によって検討した。
硝化と脱窒のいずれの段階が窒素除去プロセスにおける亜酸化窒素の大量発生につながるかを調べるためには窒素の安定同位体(15N、原子量15の窒素)を用いたトレーサー実験が有効である。この方法は、15Nを含むアンモニア態窒素を与え、発生した亜酸化窒素や他の窒素化合物の中の15Nの割合をさまざまな分析方法を駆使することによって求めて、窒素の変換過程を追うものである。その結果(下図)を見ると、無酸素状態で廃水が流入した後に大量の亜酸化窒素が発生し、これはほとんど脱窒由来であることが判明した。
さらにさまざまな条件での亜酸化窒素の発生量を調べた結果、脱窒に伴う亜酸化窒素の発生比率は条件によって大幅に変化することがわかった。しかもその発生は、活発に脱窒が起きている時期に起きる場合と、一旦微生物が取り込んだ有機物を利用する際に起きる場合があることがわかった。
これ以外にも亜酸化窒素の発生の機構について様々なことが明らかになったが、また不明の部分も未だ多く残されている。
2.下水処理パイロットプラントにおける検討
これまでし尿処理場の調査などでは、亜酸化窒素の発生量がその時々によって大きく変わることがわかっており、連続してその発生を把握することが重要である。そこで実際の下水を用いて間欠式の窒素プロセスを連続運転し、亜酸化窒素の発生を詳細に調べた。亜酸化窒素の発生は主に無酸素の脱窒工程で起き、特に好気工程から無酸素工程へと遷移し徐々に酸素濃度が低下している時期に大部分の亜酸化窒素の発生が起きていることがわかった。また、下水処理の際の亜酸化窒素発生比率は、室内実験に比較して大きくはないが、地球温暖化を考えると無視できない量になる場合もあることがわかった。
3.今後の展開
下水処理パイロットプラントでは、間欠ばっき方式と並んで用いられる循環式の脱窒について検討を進める。その一方、亜酸化窒素の発生と分解の両者が起きうる脱窒反応においてどのような微生物群がお互いに関係を持ちながら働いているかを更に解明していく。