A. 生物学的栄養塩除去プロセス

(1)生物学的リン除去プロセスにおいてリン除去を担う微生物群の機能と動態の解析

(2)窒素リン同時除去プロセスの最適運転条件の検討


背景と目的

 本テーマは栄養塩除去活性汚泥プロセスの栄養塩除去効率の改善に関連する二つのサブテーマからなる。

(1)ポリリン酸蓄積細菌の生理生態の解明

 生物学的リン除去をになう微生物であるポリリン酸蓄積細菌には、嫌気条件でポリリン酸をエネルギー源として利用して有機物を摂取する能力があることがわかっている。しかしながら、ポリリン酸蓄積細菌は、多くの研究者がその単離を試みているもののいまだに単離されておらず、その生理生態は謎につつまれている。そこでここでは、ポリリン酸蓄積細菌の嫌気好気法での優占機構を代謝機構や微生物生態学的観点から明らかにし、そして、生物学的リン除去プロセスの安定性を微生物生態学的に説明することを目指す。

(2)窒素・リン同時除去プロセスの運転条件の最適化

 嫌気および好気状態を適切に設定できれば、硝化/脱窒による窒素除去と生物学的なリン除去を同時に達成することが可能である。ここで、実際の処理プロセスでは生物学的リン除去を担うポリリン酸蓄積細菌と脱窒細菌との間に有機物基質の競合関係が存在するため、その運転条件の最適化は非常に困難である。一方、脱窒能力を持ったポリリン酸蓄積細菌(脱窒性脱リン菌)が存在することが近年証明された。こうした微生物の働きを生かした運転条件を見いだすことが、栄養塩除去プロセスの効率化を大きく前進させることに結びつく。したがって、ここでは脱窒細菌と脱リン細菌の有機物に関する競合、脱窒性脱リン細菌の存在量評価などを、微生物群構造解析や活性試験から調べ、窒素およびリンの同時除去ための最適な運転管理条件を探ることを目指す。

これまでの成果と今後の展開

(1)ポリリン酸蓄積細菌の生理生態の解明

 これまでに、嫌気条件下においてポリリン酸蓄積菌がどのようにして有機物を摂取するのか、実験室レベルにおいて明らかにしてきた。その過程において、嫌気的条件下での有機物摂取においてポリリン酸蓄積菌と競合しうる微生物が存在することを明らかにした(左下図)。ポリリン酸蓄積細菌とグリコーゲン蓄積細菌の競合関係を明らかにすることは急務となっている。また、プロセスに流入する有機物やリンの濃度が活性汚泥中の微生物相に与える影響について、形態学的な情報や遺伝子プローブを用いることにより検討している。またこれまでに得られた知見について、平成10年度より、実際の下水を処理する系(パイロットプラント)を用いて実証的な検証を行っていく。

(2)窒素・リン同時除去プロセスの運転条件の最適化

 小規模排水処理施設として期待されている回分式活性汚泥プロセス(SBR)を対象に、嫌気・好気運転のスタートアップ実験における硝化・脱リン活性測定およびバイオマーカーとしてのキノンについてプロファイル分析を行った(右下図)。その結果、硝化活性の安定化に伴い、生成される硝酸塩が脱リン細菌との有機物競合をもたらし、脱リン機能が低下が引き起こされることが実験的に明らかになった。また、汚泥の脱リン活性と汚泥中のキノンプロファイル変化との関係を整理して、2種類のキノン種と脱リン活性との間に高い相関性を見いだした。今後は、これまでに得られた知見について実際の下水を処理する系(パイロットプラント)を用いて検証を行っていく。