N2Oの主要生成の場と考えられる土壌水系において、排出されてくる窒素負荷の増大は、N2Oの発生増大へとつながることとなる。近年、閉鎖性水域の富栄養化や地下水の硝酸性窒素汚染など、人為起源による 自然界への窒素負荷の増大が懸念されている。本研究においては、特に硝酸性窒素汚染を受けた農地水系を対象としていることから、ここでは、硝酸性窒素汚染 の現状と対策に関して概況を述べる。
硝 酸性窒素は、人体内で、亜硝酸性窒素に還元され、この亜硝酸性窒素がヘモグロビンと結合しメトヘモグロビンを形 成することから、酸素欠乏症(メトヘモグロビン血症)をひきおこす。特に乳幼児の胃腸内は酸度が弱いため、微生物による硝酸性窒素還元が起きやすく、メト ヘモグロビン血症にかかりやすいとされる(Maynard et al., 1976)。よって、飲料水に対しては日本では10 mgN/Lの水質基準が設けられている。しかし、窒素施肥や畜産廃棄物等の人為的窒素負荷の増加により、世界的に地下水の硝酸性窒素汚染が問題視されてい る。

欧米においては、早い時期より 地下水の硝酸性窒素汚染が問題視されてきた。イギリスでの公共取水域におけ る調査では、1970年で11.3mgN/L(WHOの国際水質基準)を越えていたのは60井戸であったのに対して、1980年には90、1987年には 142と硝酸性窒素汚染が進行していることが報告されている(Hiscock et al. , 1991)。アメリカのいくつかの州においては、施肥量のコントロールを行ないだしており、EUでは、硝酸性窒素濃度が危険な濃度に達した区域を 「NVZs](nitrate vulnerable zones, 硝酸危険区域)と指定することで、公共の健康及び環境を守ろうとしている(Huxham, 1999)。

日本においても地下水の硝酸性 窒素汚染の報告例は多く見受けられる。特に農村地帯で硝酸性窒素汚 染が重大な問題となっている(鶴巻,1993; 山本ら,1995)。環境庁(現 環境省)が1997年度に行なった調査では、6.5%の井戸で硝酸性窒素が要監視項目としての指針値(10mgN/L) を越えていた。 よって、1999年に硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素を、公共用水域及び地下水の水質汚濁に係わる人の健康保護に関する環境基準の項目に追加した(一方井, 1999)。

Zhang et al. (1996)は、中国北部の14の都市にて地下水中の硝酸性窒素濃度の調査を行なった。その結果、69調査地点の半分以上で50mg/L (=11.3mgN/L)のWHO国際水質水準を越えており、特に農業地域において300mg/L(=67.7mgN/L)もの高い値が得られ、硝酸性窒 素汚染が中国でも深刻な問題となっていることを示している。また、Agrawal et al. (1999)はインドにおける地下水中の硝酸性窒素と窒素肥料の消費量をまとめ、窒素肥料の消費量が多い区域で硝酸性窒素汚染が特に深 刻となっていることを示している。高いところでは地下水中で1800mg/L(= 406mgN/L)もの硝酸性窒素が検出されている。

Singh et al.1995)は 今後、発展途上国においても窒素施肥の増加に伴い、特に非効率な肥料投与等によって硝酸性窒素汚染 が増加する可能性があるとしており、今後も、硝酸性窒素汚染が世界的に進むことが考えられ、早急な対策を施すことが必要である。