背景

膜分離活性汚泥法は余剰汚泥の発生が少ない処理法とされているが、実際には膜分離槽の活性汚泥濃度を制御するために引き抜きが行われており、余剰汚泥の発生もそれほど削減されていない。余剰汚泥は処理あるいはリサイクルしなければならず、これは廃水処理全体のエネルギー消費量の中で大きな割合を占めている。また焼却して焼却残渣を埋め立てる場合、それにかかるコストが高く、処分場の確保の問題もある。

そういった問題に対応するため、次世代MBRには処理水の質だけでなく、余剰汚泥発生ゼロを実現するものでなくてはならない。

余剰汚泥発生ゼロを通常の運転環境で達成するためには、SRTが無限であればよい。しかしSRTが無限であるということは、リアクター内の汚泥濃度が極端に高く保たなければならない。この状態を達成するためには、現在のMBRのデザインの改良する必要があると考えた。そこで考案されたのが傾斜板を導入したMBRである。

iPMBR(傾斜板付きMBR)

iPMBRとは、都市下水を処理するための、無酸素処理と好気処理を組み合わせたMBRである。傾斜板を無酸素槽に導入することで、無酸素槽の汚泥の沈降を促進するようにデザインされている。傾斜板は汚泥の大部分を上流側の無酸素槽にとどめるので、下流側の好気槽では汚泥濃度が比較的低くなる。このデザインにより、無酸素槽のMLSS濃度を高く保ち濃縮槽として機能させ、また汚泥引き抜きをしないMBRの運転が可能になる。

性能評価

現在iPMBRは継続して運転・モニタリングされている。好気槽の4倍の量の汚泥が無酸素槽内に保たれていることが、得られたデータにより示されている。COD・TN・NH4-Nの除去率は比較的高い。CODとNH4-Nの平均除去率は91%であり、汚泥返送量が膜透過推量の4倍の時の窒素除去率は70%である。

 
Figure 1. MLSS and MLVSS at the Aerobic tank over time.


Figure 2. MLSS and MLVSS at the Anoxic tank over time


Figure 3. COD values over time.


Figure 6. TN values over time.

コンピューターシミュレーションによる性能予測

iPMBRの性能は実験室内に設置されたリアクターの運転により評価されているが、iPMBRの機能原理はまだ十分に解明されていない。また運転条件やリアクターのデザインの変化に対する反応系の応答も、これから究明されるべきである。iPMBRはMBRに傾斜板を導入するという形状的改良を加えたものなので、特にリアクターのデザイン変化がMBRの系にどのような影響を及ぼすのかは定量的に示す必要がある。

計算機によるシミュレーションはこの要求に応える一つの手段である。当研究室では現在汎用のCFD(数値流体力学)ソフトウェアを使用して研究を遂行している。CFDソフトを使用することで、リアクターのデザインや運転条件の変化に対する流れの変化を計算し、可視化することができる。またCFDソフトウェアに汚泥の沈降速度モデルと種々のパラメータを組み込むことにより、リアクター内の汚泥濃度分布を予測・再現することを目指している。iPMBRの設計・運転指針を作成することが研究の一つのゴールである。